既存施設にPFI導入
「高尾の森わくわくビレッジ(多摩地域ユース・プラザ)」は、東京都の「多摩地域ユース・プラザ整備等事業」としてPFIにより改修および運営・維持管理されている青少年社会教育施設である。旧都立八王子高陵高校跡地を活用して、エントランス棟を増築して、旧校舎と体育館・格技場をつなぎ、一体の施設として現在は供用されている。
最大の特徴が既存施設にPFIを適用し、既にPFI事業の2期目に至っている点だ。整備から年数を経過した施設は設備の故障・破損が起こりうるが、事前の予測や前もっての予算確保が難しい。そのため民間の運営事業者側の判断で、柔軟かつ迅速に修繕が可能なPFIを採用している。
PFI事業でも、社会教育プログラムを実施
高尾の森わくわくビレッジは、青少年社会教育施設として、青少年の自立と社会性の発達を支援すべく、文化・学習やスポーツなど多様な活動の機会と場を提供することを目指している。これをPFI事業の中で官民が協力して継続していくために、いくつかの特筆すべき仕組みがある。
第一に、発注者と受注者の間での方針の共有がある。本事業(第一期)の要求水準書では、青少年事業の目的を「青少年等の文化、スポーツ、野外活動等の自主的な活動を促進するため、青少年の活動に関わる相談・問い合わせに対応して情報等を提供するとともに、利用団体や青少年(個人も含む)をはじめとした来館者の交流と情報交換の機会や場を提供する」と明記することに加えて、利用団体相互の交流の促進やボランティアの参画といった適切な活動例を示すなど、東京都教育庁が求める事業イメージを、なるべく具体的に受注者へと伝える工夫がされている。
第二に、予算面の工夫がある。上記の方針に沿って具体的な社会教育プログラムを構築・実施することになるが、契約期間の10年間にわたる社会教育プログラムの内容と必要な予算規模を当初の入札前に全て見積もっておくことは困難である。また、現状を踏まえてプログラムも随時更新されていくべきものであるところ、PFI事業期間を通じて予算額も可能な限り柔軟に対応できることが望ましい。そこで本事業では、債務負担としてはサービス購入対価と社会教育事業10年間分の予算額を含めて要求するものの、PFI事業契約におけるサービス購入対価には社会教育プログラムの構築・実施費用を含めず、別途契約を毎年行っている。具体的な手順としては、実施前年度の5月~7月に、テーマ(趣旨・ねらい)、対象層、人数、延べ日数等について、都とPFI事業者がそれぞれの企画等を持ち寄り、都、PFI事業者、有識者等で構成する社会教育事業等企画委員会で検討・調整を行い、次年度の実施計画を決定している。その内容に基づき、都は債務負担の範囲で、次年度予算を確保している。これにより、10年間という長期のPFI事業でありながら、現状を踏まえたプログラムの企画とその予算を確保することで、社会教育事業の柔軟な運営を実現している。
そして第三に、長期的な評価の方法がある。社会教育については最終的に計測すべきアウトカム指標が定めづらい面もあるが、学識者を含めた委員会にて定性的・定量的な評価として、毎年度振り返りを実施している。更に、施設の特色を踏まえた取組の成果を把握するため、単なるレクリエーション施設であれば来場者数の伸びを指標とするところ、ボランティア登録人数にも焦点を当てている。これは、青少年がボランティアとして自ら児童・生徒向けイベントなどを運営することが心身共に成長する貴重な機会となり、社会教育の意義にまさに合致するためである。キャンプ活動等の社会教育事業に参加した子供たちの中から、卒業後の生徒と合わせて毎年10人程度が、ボランティアリーダーとなるべく、ボランティアに登録している。八王子市内の教育学部等の大学生もボランティアに来ており、卒業後、後輩に引継いでいくといった好循環も生じている。今後、一層のボランティア登録の増加を目指すところである。
応札者確保と民間提案の反映
2002年の第一期公募時は特に、複数の民間事業者から手が上がるような入札条件整備に苦心したという。施設整備や改修といったハード面に要する金額規模が大きかったとしても、肝心の社会教育プログラム自体はソフト事業であり、そうした教育分野のソフト事業に長けた事業者は、必ずしも経営体力の強い会社ばかりではない。特に本件では、PFI事業では一般的な20年以上の契約期間そのものにリスクを感じる企業が散見されたことを受けて、事業期間を10年間に設定した。
また、PFI事業者からの自由提案についても柔軟に受け入れている。沿線一帯のまちづくりを通じた社会貢献の提案を取り入れ、施設付近にバス停を設置し路線を延伸したところ、周辺住民も路線バスを利用するようになった。その他にも、所在地である八王子市を含め、周辺自治体のイベント会場としての使用依頼を受け入れるなど、周辺地域に貢献している。
また、社会教育事業本体についても、PFI事業者のノウハウと提案により、体験プログラムが現在、100種類を超えるまで大幅に増加した。具体的には施設や近隣の環境を活用した野外活動、障害の有無に関らず体験できるものづくり等の魅力的な活動プログラムを提供し、雨天時に実施可能な屋内プログラムも充実している。年間2,570 件、延べ24,530 人(令和4年度)が実際に体験している。
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